UIデザイナーの募集の仕方 | ネコメシCEOブログ
の続きです。
はてブやTwitterなどでの反応で「デザイナーなのにマネジャー?」というのがありまして(同様主旨のものがいくつか散見されました)、そこに補足をしたいと思います。
この点は、ラベルの関係もあってか、職務と職位がごっちゃになってしまいがちなところなのだと思います。デザイナー、エンジニア、ディレクターなどという風に並んでいれば、これらは職務(職種)を示しています。一方で、アシスタント、スペシャリスト、マネジャー、ディレクターと、これは前の記事でいうところのバンド区分ですが、この場合は職位(職級)を示しています。
職務には一定の職能(職務を遂行する能力)が必要であり、職位にも同様に一定の職能があります。両者は似てるんだけど違うというか、職務は個人に紐づいて、職位は組織に紐づくみたいな観点があります。職務に求められる職能は個人の能力に直結し、職位に求められる職能は組織の中でどう立ち回るかという役割だといえるでしょう。
つまり、職務たる「デザイナー」には「視覚的な表現の設計を中心として云々かんぬん」とか、職務たる「エンジニア」には「システム開発に関して要求分析のうえで云々かんぬん」とか、職務たる「ディレクター」には「云々かんぬん」とか、そうした職能が求められることになります。のに対して、職位たる「アシスタント」「スペシャリスト」「マネジャー」「ディレクター」にも求められている職能があり、これは前の記事に書いたバンドの区分をご覧いただければと思うのですが、アシスタントはスペシャリストのサポートをしなさいねとかそういう話です。
ここで謎の表を取り出します。
職位\職務 | デザイナー | エンジニア | ディレクター |
---|---|---|---|
アシスタント | |||
スペシャリスト | |||
マネジャー | |||
ディレクター |
この職務と職位が掛け合わされた結果、一般的にはこのような肩書が名刺に刻まれたりします。
職位\職務 | デザイナー | エンジニア | ディレクター |
---|---|---|---|
アシスタント | アシスタントデザイナー | アシスタントエンジニア | アシスタントディレクター |
スペシャリスト | デザイナー | エンジニア | ディレクター |
マネジャー | リードデザイナー シニアデザイナー デザインマネジャー |
チーフエンジニア システムエンジニア |
ディレクター シニアディレクター |
ディレクター | アートディレクター デザインディレクター クリエイティブディレクター |
シニアエンジニア テクニカルディレクター |
ディレクター クリエイティブディレクター |
興味深いのは、デザイナーが経験を積んでいくとアートディレクターやクリエイティブディレクターになるのは、まあいいとして、ディレクターが経験を積んでいくとなぜか突然クリエイティブディレクターになることがあるという点です。まあ別にいいのですが。あ、というかそこではなくて、興味深いのは、ディレクターはスペシャリスト以降ずっとディレクターと名乗り続ける傾向があるということですね。これが余計に話をややこしくしてる気がするので、無理にでも名称変えたほうがいいと思うんですけど、ディレクターはずっとディレクターっていうの結構あると思います。まあ、もともとディレクターって言い回しが日本語にすると監督なのだから、スペシャリストふぜいがディレクターを名乗るんじゃねえ的なところが本来なのかもしれません。ディレクターのディレクターのところをエグゼクティブディレクターとかにしちゃうと意味が変わってしまうし(取締役になってしまう)。というかディレクターって書きすぎてディレクターがゲシュタルト崩壊しそうになりますが、とりあえず話を進めます。
まあ、というわけで上記の謎の表にありますように、「デザイナーなのにマネジャー」ではなく「デザイナーかつマネジャー」というのはありえるわけです。デザイナーという職務でかつマネジャーという職位を持っているからですね。
では、職務たる「デザイナー」の職能とは何でしょうか。もう少し簡単にいうとデザイナーのスキルセットです。ただ単にデザイナーといってしまうと、これはかなり広範なスキルになりそうですが、まあ、いわゆるWebにおけるデザイナーとしては、だいたいこんなところでしょうか。
- 創造性・創造力
- 視覚表現の設計・展開
- ビジュアルプレゼンテーション
- レイアウト
- タイポグラフィ
- 配色・色彩計画
- デザインガイドライン作成能力
- 写真に関する処理能力
- イラストレーションに関する処理能力
- ピクトグラムに関する処理能力
- ダイアグラムに関する処理能力
- オーサリング
- ビジュアルインターフェースデザイン
- モーショングラフィックス
- アニメーション
- 音楽制作
- MA
- VFX
- 3Dモデリング
- 3Dアニメーション
- 3DCG 制作ディレクション
- 動画撮影
- 動画撮影ディレクション
- 静止画撮影
- 静止画撮影ディレクション
- 情報の可視化、ビジュアライゼーション
- デザインマネジメント
- 企画のプレゼンテーション
- 戦略のプレゼンテーション
- ブランディングに関する戦略構築および実行力
- オブジェクト指向による設計・実装能力
- Webアプリケーション実装能力
- プログラミング言語やデータベースに関する知識・理解
- サーバサイド連携の知識・理解
- プロトタイプ制作能力
- 人間中心設計やユーザビリティに関する知識・理解
- ユニバーサルデザインやアクセシビリティに関する知識・理解
- インフォメーションアーキテクチャに関する知識・理解
- リソースアサインメント、コーディネート
- リーダーシップ
- チームマネジメント
- プロジェクト管理
- コスト管理
- コミュニケーション能力
- 情報収集能力
- 手際の良さ
- 精神的にタフである
うーん、こう並べたてると結構あるけど……、これで全部とはもちろんいえなさそうですね。でもまあ、だいたいこれくらいだってことにしておきましょう。上記を一言でいえば、「デザイナーは設計士であり戦略家であり職人でもある」という感じでしょうか。「デザイナーは見た目だけを作る仕事じゃない」とはよく出てくる言い回しではありますが、それは上記を見ればわかると思います。しかしながら、根底に流れるべきは、最終成果物における視覚的アプローチの正確さや力強さです。そこを立脚点にして、上記のようなスキルを駆使して、真のあるべき姿として掲げたとおりの成果物を作り出すわけです。
個人的には「デザイナーは見た目を作る仕事だ」って言い切っちゃっていいんじゃないかと思うんですけどね。でまあ、その「見た目」ってのは上記のようなスキルを駆使した集大成なんだよってことなのでして。あ、もちろん、目に見えるものだけをデザインしてるわけじゃないって意味で、”見た目”という言葉だと語弊があるって話だとかはわかるんですが、話がマニアックすぎて専門外には伝わらないこだわりといいますか。
さあそれでは、職務たる「デザイナー」の人のすべてが、これら全部を使いこなせるのか?というと、まあ、使いこなせない人のほうが多いでしょう。しかし別に全部できなくても職務「デザイナー」は務まります。なぜ務まるのかといえば、職域(職務を遂行する業務の範囲)があるからですね。所属している部門が担うべき職域が、その組織における職務「デザイナー」に対して普遍的に求められる範囲を規定しているのです。
ようするに、たとえばデザインチームとエンジニアチームにそれぞれ人数がそれなりにいるような組織であれば、上記の職務「デザイナー」のスキルセットのうち、概ね上のほうはデザインチームが担っていて、下のほうにあるプログラミングっぽい感じの内容のところとかはエンジニアチームが担っているのですから、そうした組織においての職務「デザイナー」は上記のすべてを求められることはありません。ただし特定個人において、概ね上のほう以外の項目についてもできますよというデザイナーはいるかもしれなくて、そうした特定個人のデザイナーに対しては、通常の職域外のタスクも担ってもらえば良いということになります。これが、ようするにその人の「のりしろ」というやつだと思ったほうが良くて、この「のりしろ」を大前提にしてしまうと、上記の項目すべてを職務「デザイナー」の最低要件にしなければならなくなってしまいます。
それどころか、職務「エンジニア」のスキルセットにしか書かれないようなスキルまでも大前提「のりしろ」にしてしまうと、もうそうなると、そんじょそこらのフルスタックデザイナー(謎)でも無理な領域になるというか、ますます、そんなやついねーよ的になっていくというか。いいんですか、給料青天井ですよ。でも、そうした通常の職域外のスキルも含めてデザイナーだとかいっちゃう人っていうのは、自分もそうやって多種多様なことをしてきたから今の自分があるみたいな自負に基づいているのだと思いますし、それはそれで素晴らしいことだったりもするわけです。ですから一概にだめだとかそういう話でもないのですけれども、もう求人採用の仕方を「わたしの劣化コピー募集」とかにしたほうがいいと思います(謎)。
さて、先ほど職域によって業務範囲が決まっていると書きましたが、職務「デザイナー」の各職位において求められる職能も、職域に左右されるのかというと、必ずしもそうではありません。ある程度は左右されますが、所属するデザイナーたちの職能の総合力によって組織の職域自体を広げたり、横にずらしたりすることができるからです。ようは、たとえば、本来3Dはうちの職域ではないのに、やたらとデザインチームのメンバー全員が3Dに関する知識とか能力があるぞということになれば、それはもう「のりしろ」ではなく、組織として明確に顕在化させて、「うちは3Dグラフィックを専門に扱うぞー」と対外的に言ってしまえばよいわけですね。
ちなみに、うちは少人数だからデザイナーに幅広い職域を与えている的な組織もあるでしょうが、そうなったらそれこそデザイナーは上記のすべてを駆使しなければならないのか?というと、これまたそうではなくて、職位によってそれぞれの項目をどれくらいできればいいかというのが、まあだいたい決まってくるんですね。とりあえず「視覚表現の設計・展開」を例に、職位ごとにどれくらいのことができればいいかというのを示してみます。
職位\職能 | 視覚表現の設計・展開 |
---|---|
アシスタント | 必須:スペシャリストの指示のもと、ひたすらデザイン展開をしたりする。 できれば:主要なエレメント(コンポーネント)設計に準拠したかたちで、その他のエレメント(コンポーネント)も設計する。 |
スペシャリスト | 必須:視覚表現設計に基づいたデザインを作成し、エレメント(コンポーネント)の設計とデザイン展開をする。 できれば:ブラウザなどで確認可能なデザインプロトタイプを作成する。 |
マネジャー | 必須:視覚表現設計に漏れがないかを確認する。作業成果物が設計に基づいているかをディレクションし、適切な指示を与え、必要に応じて物理的に支援する。 できれば:デザインガイドライン化する。作業進捗に関するリスク管理をし、いつでも外部リソースを調達可能な状態にしておく。 |
ディレクター | 必須:プロジェクトで定義された要件に対して、最良の表現方法を設計し、適切な指示を与え、必要に応じて物理的に支援する。 できれば:革新的な表現手法を開発したり多彩な表現方法を設計し、業績や企業価値の向上に貢献し、世の中に影響を与える。(ようなことをすると説得してお金をもっととってくる) |
とまあ、こんな感じ。あ、もちろん例ですよ、例。職位によってどれくらいのことをする必要があるかは各社できちんと定義してくださいね。まあこんな細かく一個一個定義してったら日が暮れますけど、もし時間があるならきちんと定義することをおすすめします。仕事の理解にも通じるところがありますしね。
なお、注意点いうか重要なポイントとしては、職位「ディレクター」は職位「アシスタント」の業務も”できる”が、職位「アシスタント」は職位「ディレクター」の業務は”できない”というところです。ここ本当に、重要なので雇用側、被雇用側どちらも十分に気をつけてくださいね。特に職位「アシスタント」相当の給料しかもらってないのに職位「ディレクター」相当の業務責任を課せられているようなケースはもう労基署に駆け込んでいいと思います(謎)。
ということで、すんげー長くなってしまいましたが、以上をもちまして「デザイナーなのにマネジャー?」という疑問への回答といたします。
それにしても、こんなぐちゃぐちゃ言ってる暇あったら手を動かせと先輩諸氏に叱られそうですが、しかし一定規模以上の組織になると、こういうぐちゃぐちゃした事柄の整理ってけっこう必要なんですよね。ツルカメとネコメシは零細なんで不要なんですが、まあ、前職では適正な評価のためにも必要でしたということで。本記事は著者の経験を踏まえた知見によるものです。
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